『初音ミクの証言』から見る、ボカロ曲とヒップホップの蜜月について

ヒップホップユニット・LAMP EYEの名曲「証言」を、
ボカロに歌わせてリミックスした「初音ミクの証言」が話題です。

斬新で密度の濃い、面白い動画になっておりますが
この曲の中に、とても強烈かつ懐かしい「ボカロらしさ」も感じました。
それは、ヒップホップの根本的な特徴がボカロ曲と通じているからだ、
…ということを今回書きたいと思います。

初期のボカロ曲の特徴には、初音ミクがキャラとしての
存在感を持っていたことが挙げられます。
電子世界の歌姫という自分の立場を歌う
歌詞の内容が多く、 また動画のサムネイルには
青髪のツインテール少女が必ずと言ってもいいほど登場しました。
要は、自分で自分の曲を歌うというわけで、
もっと端的にいうとキャラソンだったわけです。
楽曲の作風もアニソンっぽいものが多かったのは
それが初音ミクのキャラソンだったからと考えれば
すんなり理解できるかなと思います。

10年代以降は必ずしもそういう傾向はありません。
例えば、現在ロックバンド「ヒトリエ」の主要メンバーとして
活動しているwowaka(現実逃避P)の作品を見れば
そこにはボーカロイドのキャラとしての存在感は
皆無といえるでしょう。サムネは抽象画ですし。
彼の楽曲はアニソンというより、インディーロックの特徴を持っています。
実際、僕の動画もそんな感じですしね(ステマ)

さて、「初音ミクの証言」はどうでしょう。
動画を見れば明らかですが、自分で自分のことを歌いまくりです。
さらに「調声」などの制作テクニックや
「無数のシリアルナンバー」といったソフトウェアっぽさを歌う
メタなところは初期のボカロ曲との強い共通点です。

自分で自分のことを歌う音楽ジャンルといえば、
実はキャラソンよりもヒップホップのほうだと言えます。
自分のラップテクニックや、自分をとりまく音楽シーンについてまで
言及してしまう特徴は、キャラソンにはない傾向です。

特にここで注目したいのは、歌唱テクについての言及です。
自分の境遇を歌う曲はいろんなジャンルで多くありますが
自分のテクニックのことを歌うのは、極めて少数派です。
しかしヒップホップの場合、このメタ的な歌詞が極めて重要です。
なぜならヒップホップのライブの場合、共演者を敵対関係とみなし
相互批判の「ラップバトル」を繰り広げることがあるため
相手を打ち負かすラップテクニックこそが
ラッパーにとって重大なアイデンティティになるのです。
他のジャンルのライブならば共演者とは
「一緒に頑張って盛り上げましょう~」みたいな
ヌクモリティが発生するものなんですけどね。

そしてボカロ曲の場合も技術的な性能について
自己言及することが多かったわけですが
それはボーカロイドというソフトウェアにとっては
性能こそ自分のアイデンティティだからです。
いかに自分が楽器として優れているかを示さなければ
存在意義が無くなってしまうのですから。

このように、テクニックの自己言及と、アイデンティティ形成との関係に
ボカロ曲とヒップホップの根本的な同質性が見て取れます。
作り手の切実なメッセージが浮き彫りになるという点は
音楽のエキサイト具合も高めてくれるんですよね。
「いかに自分らしさを奏でるのか。」
この問題には多くのミュージシャンたちが取り組んでいるわけですが
「初音ミクの証言」はそんな問題に対する
エキサイティングなアンサーソングなのかもしれないと思いました。

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