M3秋2018での入手作品+αを全部レビュー【第一回】

実は私、とある音楽ライター講座(全五回)に先日参加しまして、せっかくなので事後トレーニングをしたく思います。こないだR3Magazineの企画に参加してM3秋2018の作品をレビューする機会があったことだし、引き続き同人音楽の新作を紹介していきますね。

真面目に書きます。順番は概ね開封した順番です。今回はsamayuzame
と、ねこぜなおとこ。

samayuzame「CERO-A」

現在彼女は東京藝大の音楽学部2年で、もともとエレクトロなR&Bなどを得意にしていたボカロPですが今作は初の本人歌唱によるフルアルバムです。大人びた息遣いを見せるハードエレクトロが椎名林檎「加爾基 精液 栗ノ花」を彷彿とさせたり、今時のfuture waveのようなちょっと甘い曲にトゲトゲしさを混ぜ込んできたりと、可憐さのなかに結構な緊張感が漂う作品。
https://samayuzame.booth.pm/items/1011248

最初に強烈な印象を受けたのはこのジャケットを含むコンセプト。女の子と生肉というとLady Gagaの生肉ドレスを連想するんですが、生肉というモチーフは以前からフェミニズムアートの文脈では知られたものだそうで、それを女子高生のイラストと「CERO-A」という表題に合わせてくるものだからタダものじゃないなと思ったのです。これ、ジャケットだけじゃなくて中の装丁も強烈でした。パカっと開けたときにホントにゾワっとしました。これだけブチカマしてくるCDはそうそうないです。

白状しますが、かつて僕が最初に彼女を知ったのは「現役JKのボカロP」としてのsamayuzameでした。そしてやはり同様の男どもは沢山いるらしく、彼女がそういう角度での求められ方に辟易していることも知ってます。その文脈を踏まえてこの「CERO-A」を聴くと、いま現在のsamayuzameの思いが生々しく感じられる気がします。大人びてはいるのだけど、その歌声は大人になりきろうとまではしない。アルバム通して常にどこか拒絶感と物騒さがある。とりわけ「なまにく」(Tr.6)は一番の圧力と緊迫感を一分強でぶつけてくるし、その次の曲はそれをフォローするかのようにふわっとキャッチーな音で、「社会的殺人のススメ」(Tr.7)を押し付けてくる。

こういう性や暴力の雰囲気を安易な18禁(=CERO-D)的表現に置き換えたりはしないし、ちっとも聴き手に甘さを許してくれない全10曲でした。気迫と脆さが詰まったアルバムですが、僕の印象としては「社会性のないフェミニズムアート」的作品としても聴けるかもなと感じました。僕の幻想をもっと殺してほしいです。

※最後にフォローしておきますが、先回のM3で僕が新譜を落として墓を建てたときにsamayuzameはたまたま隣のブースにいらっしゃって、手を合わせて悼んでくれました(参考リンク)。やさしい人やで…。

https://samayuzame.bandcamp.com/
https://twitter.com/samayuzame

ねこぜなおとこ「The Desktop Collage 2018.10.28」

ボカロPねこぜなおとこ の新作…というか、M3秋2018が開催される6日前から思い付きで制作をはじめ、過去作や撮りためたオーディオ素材をコラージュしていくことで51トラックを詰め込むというヤケクソっぶりが僕の中で話題となっておりました(なお再生時間は計30分足らず)。
https://697nekoze.booth.pm/items/1073213

本当に断片的なフレーズが混ざったり混ざらなかったりハードなノイズが飛び込んできたりとナンセンスな30分ではあるのですが、MIX作業の最中にボヤいた「微妙だなー…」という切実な声が混じったり(Tr.4)、かと思えば彼の過去の作品の強烈なフレーズが飛び込んできたりして(Tr.12)、彼の生活と制作と無意識下の行動が混じり合った結果、微笑みと苦笑いと爆笑を同時に誘う強烈なインパクトを与えてくれる一枚です。古いタイプの同人音楽っぽさを感じます。

やってることはアングラですが音質はかなり良好で、細々と色んなサウンド手法を使ってくるクレバーさも憎らしい。雑さと器用さのバランスが良いんでしょうね。ていうか単なるヤケクソじゃ6日間で作品作れないからね。なお、彼の過去の作品を全く知らない場合は聴いても面白くないというのも事実なので気になった人は過去作聴いてみてから挑んでください。
https://www.nicovideo.jp/mylist/24142108

しかし、こういうヤケクソなショートトラックを詰め込んでいくのは制作手法はAnal CuntのようなグラインドコアバンドやBBQ Chickensみたいなパンクバンドには見られるのですが、彼は必ずしもそういうタイプではないし、むしろ普段の頒布物は読み物つきのCDだったりする文系ロック青年です。正直なところ彼の制作のインスピレーションがどこから来ているのかが不思議…。
https://twitter.com/697nekoze

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