夜長アンジーの絵画は抽象表現主義と同類のシャーマニズムなのか

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「超高校級の美術部」夜長アンジーちゃん from ダンガンロンパV3
最近ダンガンロンパシリーズにはまってます。一応説明しとくと「ダンガンロンパ」とは推理ノベルゲームで、監禁された高校生たちが暗殺合戦を強要されるなかで犯人を暴いていくというハードなやつです。
さて、その中に「夜長アンジー」というキャラがいます。見るからに天使ですね(アンジーとは天使 (angel)を語源とする女性名ですし)。超高校級の美術部であり、土着信仰の巫女さん。監禁生活において存分に能力を発揮し同級生にお導きを与えまくる挙動がプレイヤーに恐怖を植え付けた結果主要16人中14位の不人気キャラですが天使です
作中でもとある登場人物が言う通り、コロシアイという極限状態において信仰に頼ることは人類的に見れば当然ですし、そういう背景においてこそ芸術や文化が生じるものです(ちなみに刑務所の中で受刑者が新興宗教作っちゃうケースも実在します)。というわけで、今回アンジーちゃんの芸術と宗教について既存の文化と比較検討してみました。ほんの少しネタバレがありますが、ストーリーの核心には影響ないはずです。
なお、本記事中の学術用語は蛭川立「宗教と宗教的職能者」に準拠しています。webにこれだけ分かりやすいテキストが転がっているなんて素晴らしいヨ。
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メキシコのカルト宗教は薬物マフィアが獄中で立ち上げたとか…。
Photograph by Shaul Schwarz, National Geographic

美術とシャーマニズムの関係について(一般論)

アンジーちゃんといえば「神ってる」が口癖で、いわく制作にあたって「体を貸してるだけ」です。堅い言い方をすれば、超自然的存在と自己の身体が直接かかわることが可能。ゆえにこの信仰に教典は存在しないようです。このことから、アンジーちゃんの信仰はシャーマニズム(霊会との交信を中心に据えた考え方)に分類されます。さて、シャーマニズムと美術の関係ですが、これはいくらか挙げられます。

①現代抽象美術の中におけるシャーマニズム

岡本太郎やジャクソンポロックなど、著名な抽象画家の中にはシャーマニズムの影響を受けたものがあります。これは、かのシュルレアリスムの思想的背景にはフロイト心理学があり、そこから関連して「無意識」が前衛抽象表現のテーマとして扱われるようになったからかと思われます(参考)。憑依状態をよく「トランス」と表現しますが、これはすなわち「意識不明ではないけどおかしい」状態のことです。シャーマニズムとフロイト心理学はここで結びつきます。

②シャーマン自身による表現行為

沖縄のユタと呼ばれるシャーマンは巫術中に即興曲を歌うことがあるそうです(野田燎「シャーマニズムと音楽についての考察」)。ほか、インドネシアのケチャは元々巫術師の舞踊にルーツがあることが知られています。ただしこれらは身体表現ベースなので"美術"にはカテゴライズされないでしょう。シャーマン当人が憑依中に美術品を作っているケースがあるかもしれませんが、シャーマニズムは概ね原始宗教ですので、アーカイブが少ないと考えられます。ちなみに魔女文化での呪術品ですが、呪術と交霊術は若干違うので、定義からは外れそうです。

③シャーマンを崇めるための美術

シャーマンは社会的に高い地位を持つことが多く、その場合は神仏像の建立を命ずる権限があります。また、捧げものとして美術品が作られることもよくあります。これは必ずしもシャーマニズムに特有ではないです。

夜長アンジーちゃんの美術とシャーマニズム

さてひとまずはアンジーちゃんの制作は①とも②とも取れるようにみえます。憑依中に制作活動をしているかの表現が散見されるので基本的には②なのですが、彼女のアトリエには黒ペンキを使ったアクションペインティングの形跡のようなものがあり、ジャクソンポロックの後期作品の影響があるかもしれません(超高校級の美術部がジャクソンポロックを知らないとは想定しづらいです)。また彼女が写実的な造形作品を「気づいたら」作っちゃうシーンがありますが、リアリズムに基づきたいのなら憑依状態に入る必然性のない状況でもあります。
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ジャクソン・ポロック「ナンバー14」(1951)

そこで、アンジーちゃんのシャーマンとしてのスタンスを確認すると、「島の神様がいつもアンジーの隣にいる」と表現していて、さらに他者にトランス状態をもたらすこともできるのですが、その一方で制作中は神様が「入ってくる」とも言います。ここでアンジーちゃんは分類上「憑霊型シャーマン」「脱魂型シャーマン」の両方を兼ね備えていると考えられます(分類図)。この二つは、要は神を呼び寄せるか神に呼ばれるかの差なのですが、社会性にも違いがあると指摘されています。アンジーちゃんは島のなかで特権的な地位にいるとされていて、これは「脱魂型シャーマン」の特徴です。思い起こしてみると、作中ではクラスメイトを神った状態にさせていますが、いわゆる御告げを与えていると見做せばわかりやすいでしょう。

このように考えると、夜長アンジーは一般的な聖職者・霊能力者よりも高位の能力を持っていると言えます。超高校級の美術部でもある夜長アンジーからすれば、ジャクソンポロックは必ず乗り越えなければならない存在でしょう。神を騙る不敬な輩ですから。そして、そうなると先述の①でも②でもないといえるでしょう。なぜなら。トランス状態と非トランス状態を自在に行き来しながら超自然的でスピリチュアルな美術作品を作ることができるのであれば、それは美術史からも文化史からもハミ出た存在になるからです。夜長アンジーは超高校級の美術部どころか、世界史の教科書に燦然と輝く存在になる可能性もあるのだと思います。

以上、妄想キャラ語りでした(真に受けてはいけない)。

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