中高生ボカロPの受け入れ方

(注:一見内輪ネタの記事ですが、一応ポピュラー音楽学的な話を書いていますので関係ない人でも読める記事です)

いまネットの片隅で、(元)中学生ボカロPをめぐる警察沙汰の中傷トラブルが起きている。その詳細はもともと「詳細まとめ」みたいなものがあったのだけど、まとめ行為そのものが触法気味なので紹介できない。読んだ感想だけ述べれば、当事者である15~16歳がまとめたネットトラブルまとめは、客観化のツールとしてあまりにも拙かった。

なので、僕は今ここで誰がどう悪いかと述べる材料はない。それに僕は当事者を両サイドとも存じてるので純な視点なんて持てない(廻転楕円体に至ってはライブ見に行ったりしてるし)。だからこそ、わずかながら「見て見ぬふり」の自責の念があるので、僕にできる話を少しさせてもらう。以下のことは上記のトラブルの当て擦りみたいになってしまっているが、学校関係者として日ごろ感じていることを元にしている。

中高生クリエイターであることの価値について

世の中には「天才中高生ミュージシャン」みたいな扱われ方をする人がいる。TVバラエティ番組だとかの軽薄なノリを連想するかと思うが、近年のロックでいえばArctic Monkeysもそれに近いかもしれないし、日本でもいま崎山蒼志がそのような注目を浴びているわけである。冒頭に触れた案件に関わるが、高校生ボカロPといえばorangestarなど注目株が少なくない。若いミュージシャンが若さゆえに受ける扱いは、結構重要なのだ。

さて、それに対しよく出てくる言説は「若いってだけで注目されるのはいかがなものか。楽曲が良ければそれで良いではないか。」というものだろう。作品の良しあしにミュージシャンの年齢は関係ないというわけだ(ただしここには、必要以上に注目されることで生じる悪影響を心配する親心もあるだろう)。このスタンスを小難しく表現すれば、芸術的価値を美的価値のみに求める態度だと言えるし、ホワイトキューブ的だといえる。このような美的価値中心主義は、一見もっともに思われる。実際間違っていないし、割と支配的な価値観だ。

だがしかし、正しいとは言えないと僕は考えている。

まず第一にポピュラー音楽は若者の文化だからだ。多少音楽がしょぼかろうが、早熟なミュージシャンの貢献度がデカいのはどうしようもないことだろう。だって若者文化なんだから。おっさんへは、託したくても託せないものがある。ネットカルチャーなら尚更だ。

もう一つの問題は、表現行為は「誰がどうやって伝えるか」によって機能が大きく左右するという原理的なものだ。例えばファックサイン一つにしても、アメリカ人上司にされるのと近所のガキンチョにされるのでは意味が全く違う。同じ表現ならば与えるメッセージが同じ、なんてことはないのだ。これらは学術的には「言語行為」として体系化されているのだが、芸術表現も同様の方法で体系化することができると言われていて、誰がどうやって制作したかという情報は作品の本質にすらなり得る(岸「絵画行為論」)。

そのほかの論点として、音楽はメディアとプレイヤーを通した再生音でしかあり得ず「作品だけに対する純粋な評価」というものは幻想である…、というものもある。どう転んでも文脈依存環境依存にならざるを得ない。

少し長くなってしまったが、要は若い子を実力以上にフューチャーしてしまうのは致し方ない、ということだ。だがしかし、これは誰しもうすうす分かっていることだろうし、僕が言いたいことそのものではない。僕が一番言いたいのは、先ほど触れたような「作品の良しあしにミュージシャンの年齢は関係ない」というツンデレな親心は通じにくいだろうということだ。

子供扱いすることとクリエイターとして扱うことのはざまで

一般論で言えば、子どもを子ども扱いすることは近代人のたしなみだ。大人な対応が立派な大人を育てる…とは限らないように思う。中世ヨーロッパには子供という概念が存在しなかったそうで、子供を子供扱いするというのは人類史的に重要なことである。ちなみに今ドキの大学では入学初年次教育専門の先生を採用し、10代のモチベーションを昇華してあげる工夫をしているので実務レベルでもそういう方向に進んでいる。

しかしインターネットというフラットな世界では、ジャンル間をあっという間につないでしまうボーカロイドという界隈では、実力主義と自己責任のクリエイティブ界では、大人と子供の関係、仲間と他者の関係、先輩と後輩の関係が分からなくなりやすい。それで上手くいかなかったことを悔いておられる人が多いようだ。自分も悔いてばかりだ。きっと、もっとオフラインの世の中、ほかのジャンルの人々と触れ合って視野を広げていかなければならないのだろうなと思っている。どうもネットミュージシャンは、穴の奥底を覗きすぎてしまう癖があるようだ。

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