「表現の自由を守る党」はこのままでは正面突破されそう。

参議院議員の山田太郎氏が「表現の自由を守る党」を立ち上げたということで。
僕は同人音楽文化の視点から「表現の自由」についていくらかコラム書いたりしてますので、多少なり関心を寄せております。

山田氏は二次元規制反対についてコミケの会場にて演説するなどの活動で知られ、すでにTPP交渉の著作権分野などにおいて実績があるようです。 著作権法って文化的にも経済的にも影響がでかい割にはWeb社会やグローバル社会に対応できていないフシがありますから、この領域でいろいろと提言できる人材は意外と重要だと思います。
…ただ、僕は正直なところ彼の活動をやや疑問視しています。何でかというと、山田氏の「表現の自由」の関心が不自然にコンテンツ論に傾いているからです。
  
ネットで観れる範囲の資料を見てみる限りでは「二次元の表現の自由」に一番の焦点を当てている模様です。本人のメッセージで一番明白だったのを抜き出すと、「規制を強化すれば、今まで普通にマンガやアニメ・ゲームを楽しんでいた人たちの権利を大幅に奪うことになります。」とのこと。 
2013年ごろのブログの過去ログを見るとわかるのですが、山田氏は元々経営コンサルタントで、とりわけアジアでのビジネス展開支援に関心をお持ちでした。その文脈でソフトパワーやコンテンツ産業についても触れている記事があります。彼の表現規制に対する問題意識はそこから生まれたのではなかろうかと推測できます。

その一方で「言論の自由」に対する彼のスタンスがはっきりしないことが、非常に不気味です。その不穏さは「2015年の表現規制を振り返る」インタビューで出てきた、政権による報道圧力疑惑に関するコメントにて際立っています。 

「あと、その他、ニュースステーションがどうだとか、岸井さんの問題がどうだとか言ってますけど。かなり私も国会にいて、官邸や自民党というものは相当なものだなと。良いも悪いもですよ。かなり力を持っているなというか。徹底的ですよね。そこまでやる?みたいなことがけっこうあるので。だから、あなどれないなと思います。」

報道圧力については「その他」のトピックらしいですし、自民党による報道圧力を「敵ながらアッパレ」という具合で好意的に受け止めているようにも読めます。普通「表現の自由」を語るときに筆頭トピックになるのは思想信条やジャーナリズムの問題だと思いますが、彼の場合はそうではない。うーん、これで「表現の自由を守る党」のリーダーと言われてもなぁ…、というのが僕の感想です。
ちなみに彼のウェブサイトでの主張も見てみますと「報道の自由」に触れた記事もありますが、 やはり別の記事と比べれば自信のなさが目立ちます。
ちなみに彼のWebサイトのメニューにある「政策」ボタンにカーソルを載せてみると、彼の関心キーワードがズラっと表示されます。 上部に「児童ポルノ禁止法」「著作権非親告罪化」が表示されるわけですが、「秘密保護法」は「農薬問題」「花粉対策」よりも下位に表示されます。そしてこれをクリックして「秘密保護法」に言及している彼の記事一覧を見てみると件数は多いものの、 議会報告や会合告知が大半であり、ほかのトピックと比べると持論を展開していないことが見て取れます。

先述の通り二次元の表現の自由(とりわけポルノ受容の問題)は優先順位の高い権利ではありませんから、擁護する難易度が高いです。そのため山田氏は多彩な論点を立てることによって戦っていまして、この戦略家ぶりは称賛に値します。しかし、その能力があれば報道・言論の問題にももっと切り込めるはずなのに、そして今こそその時なのに、なぜか言葉を濁してしまっている。

古典的でサヨクくさい問題には「中立」のポーズをとるのが日本社会のトレンドになりつつありますが、「表現の自由を守る党」がそれで大丈夫なのか。それとも、与党批判を許さない党内事情に絡めとられているのか。いずれにせよこのままでは、いざという時に弱々しい妥協案に胸を張る政治家になってしまうのではないかという懸念が消えません。安保法制の議論において彼の所属する「日本を元気にする会」が見せた態度は、まさにそれでしたから。

以上の通り、肝心なところで力を発揮できない懸念があることと、「表現の自由」は幅広い領域で語られるべき問題である以上、「表現を守る党」は超党派団体として展開してほしいなと思います。

1 件のコメント :

  1. 突然のご連絡で失礼いたします。朝日新聞記者の長野剛と申します。
    aoiiinさんが以前、ツイートされた内容に関心を持ち、コメント欄にお邪魔させて頂きました。
    拝見したツイートは昨年11月のもので、うどん屋さんの中国語メニューが大変恥ずかしい表記になっていた、というものです。冗談のような話にも見える一方で、google自動翻訳を利用する上での教訓ともいえるのではないか、と思い、記事の題材として検討しています。
    つきましては一度、直接コンタクトを取らせて頂けませんか? できましたら「nagano-t@asahi.com」までメールを頂けると幸いです。

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