拝啓、浮森かや子さま。(そして「真夜中の屋根裏音楽会」のレポート)

浮森かや子(ちかもりかやこ)というボーカリストがいます。僕が一番敬愛しているといっても過言ではないボーカリストで、10年近く前からファンをしてます。

今から書く文章は、浮森かや子の批評であり、先日のライブレポートの一部であり、そして個人的な感情の吐露でもあります。一応本気で書くんで、仰々しい表現が出ても信じて読んでほしいです。敬称略。

浮森かや子とは何者なのか

浮森かや子は同人音楽サークル「幼蚕文庫」を主宰し、作詞・作曲・ボーカルとしてお伽噺のような世界を描き出しています。なにがすごいかと言う話ですが、まずとんでもなく歌がすごい。果てしなく伸びやかで、甘く、そして常に寂寥感を帯びている、そんな具合です。僕なりに例えて評するなら、持ち主を失ったバイオリンが付喪神になって憑依したかのようだなと思っています。

幼蚕文庫での曲はクラシカルなものが多いんですが、ロックでもアイドルポップでも自分の音楽にしてしまうチカラもあって、名前を挙げつつ例えるなら、綺麗な戸川純なのだろうと思います。ちなみに僕が最初浮森かや子を知ったのは「べろシティ」というロック系のサークルに参加していたのを聴いてからです。『ぼくはツヨシを待っている。全裸で。』といういかにもアタマの悪そうなタイトルのEPをタダで配布するというアタマの行動に惹かれて聽いてみたら、そのリードトラック「Out Of The Drawing」がとんでもなくカッコいい。そこからズブズブと入りました。稿を改めて紹介できたらと思うけど、べろシティの『UFFOO』はUKインディロック路線と日本インターネットナードの世界観が結びついたアルバムとしてマジで傑作です。僕にとってはMUSEの『absolution』と並ぶ名盤。

言ってる意味がよく分からないなら『まつげうさぎと踊り子の旅』を聴いて、そのうえで「君には期待してない」を聴いてください。分かるから。


パーソナリティも凄い個性豊かです。彼女に実際に会ったりwebラジオを聞いた人ならば分かるのですがものすごく丁寧な人の良い方で、ライブでは何か喋ろうとするだけで観客の女子は萌え散らかすわけです(喋る前の挙動の時点で既に萌えるのであり、実際にはあまり喋らない)。それを「マジ天使」などと形容するのは生温く、関係者からは親切の化身と評されています。「まつげうさぎと踊り子の旅」という曲を作れるところにもそのあたりは現れているかと思いますし。ちなみにコアなファンには「べろシティの『おんせんわいたー』」の視聴を推します…


お伽噺の国から、人生の境地に叩き込むライブ

さて先日、幼蚕文庫&mamyukkaのツーマンライブ「真夜中の屋根裏音楽会」に行ってきました。 …事前に言うと、かつてなく愕然とする体験をしたのです。

この共演のmamyukkaも本当に面白くて、設定したコンセプトを音楽とデザインで具現化することに長けたサークルです。このライブもイベント全体のプロデュースが凝りに凝っていて、チケットの発行スタイルから開演アナウンスの演出から何から何まで表現の一つとして機能していて発見の連続でした。だいたいライブパンフレット(しかも34Pオールカラー、5曲入りのCD付)を頒布してる時点でとんでもないんですが…。
※メロンブックスのサンプル画像より。

で、開演しょっぱな浮森かや子が「綱の上の喜劇」を歌い始めると僕の周りからすすり泣きが聞こえてきて苦笑いしちゃいましたが、僕もコラボ曲だとか「冴えない故に悶える」とかでテンション爆上がりしてましたし、「暗やみ動物園」を聽いているとそのドラマチックな展開に思わず手を差し伸ばしたくなって、でも無事を祈りたくなるようなそんな気持ちにもなってしまい、メチャクチャ自分の手を握りしめてしまいました。

しかし、本当に忘れがたいのは、その後のMCと新曲でした。さっきまでのMCは「えっと、あの、あっあっゴメンナサイ あっあっ(※脚色無し)」って感じだったのに、後半になってとつとつと語りだしたのは「いろんなことがあって、(気持ち的にも)曲を作ることができなくなってしまって、でも最近やっとまた曲が作れるようになった」というような内容でした。内容としてはよくある話だけど、その曖昧な言葉選びや声のつまり方、そして目配せは、何かを逡巡して堪えている姿としてあまりにも生々しかったのです。きっと具体的な出来事だとか本心も言おうとしたけど、観衆が悲しい気持ちになりそうな言葉は言い出せなかったのかなと僕は受け取りました。

なのに、歌いだしたその新曲の名前は『うそと云う鳥の本当の御話』。『あれもウソ、これもウソ、君の全てがウソみたい』『私も自分の姿形 忘れてしまいました』と歌い、アコーディオンの旋律と彼女のビブラートが、冷たく突き刺さる。その時の彼女はお伽噺でもなくマジ天使でも親切お化けでもなく、むき出しの個人でした。僕にはそれが衝撃だった。それは彼女に対する幻想が剥がれたからだとか、抱える哀しみに共感してしまったからというわけではなく、こんなにも"隠そうとしてるのにまるで隠しきれていない"音楽を聞く日がくるとは思っていなかったから。その瞬間、mamyukkaのデザインしたライブ空間から意識が引き剥がされ、僕は今ライブハウスにいるんだということが自覚できなくなって、立ちすくんでしまったのです。今まで色んなライブに行きましたがこんな感覚は始めてでした。こないだのNapalm deathのライブで北斗の拳のザコ敵みたいな格好した全身刺青パンクス兄貴から体当りを食らったとき以来の衝撃です。

…まぁその後しばらくしたら落ち着いて普通に楽しんでましたけどね。『霧の底のキノコ谷』キタアアアア!!とか思いながら最高でした。それはmamyukkaのまめこが引き戻してくれたおかげです。あとオッカの作る曲の空間表現すごすぎませんか?あのキャパのライブハウスであれだけ綺麗に鳴らし切るの聽いたの初めてな気がするぞ?弟子募集はどこでやってますか?今回のレビューでは割愛してますけど実際のところmamyukkaのCDも結構持ってますからね? ヒィ ヒィ フゥーーー

なんか断片的な感想になってしまったので続き書くかもしれない。気になったらTwitterのほうをフォローするなり監視対象にするため発信者情報開示請求していただければ幸いです。

敬具、浮森かや子さま。 

今後の具体的な活動は聞いていないものの、どのような新作が出るか今後が楽しみです。その一方で、今後また聴けるかどうかがなんとなく不安だったりします。いや僕が心配したところでなんになるねんって話ですけど。それならそれで仕方のないことですし。
でもそういえば僕、前までこの人に歌ってもらえるくらいの音楽が作れるようになりたいなぁなんて思ってました。音楽づくりはそう簡単じゃなくて最近は自分の作品をアピる気持ちになれないんですけど、それでもやっぱり目標になるような存在なんです。今でもひっそりと意識してます。一応少しずつ近づいてるつもり。
だからワガママですけど、歌い続けていてほしいと思います。そしてまたどこかでこうしてお会いしたいと思っています。僕もなんとかかんとか背伸びし続けます。

それでは、ご息災で。


 

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